WORKS
導入事例
鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社 様
坑内外の車両位置の見える化によりトンネル工事の安全性・生産性が向上
屋内外測位により狭隘なトンネル内での大型車両のスムーズな離合を実現
日本を代表する建設会社として国内外で建設・開発に関わる事業を展開し、 企画・開発か設計・エンジニアリング、施工、建物竣工後の運営・管理、維持・保全に至るまで全てのフェーズで事業を手掛ける鹿島建設株式会社。 土木分野の中でもトンネル工事は、衛星測位が使えないことから坑内の車両位置の把握は限定的であった。 iFieldとiField indoorを活用することにより坑内における車両位置の管理が可能になり、 坑内外のシームレスな車両位置の見える化を実現、施工時の安全性・生産性の向上を達成した。
重機や車両が坑内にひしめくトンネル工事
対象となった現場は高知県にある日下川新規放水路工事。真ん中に作業坑を掘り、そこから水を引き入れる呑口側と放水する吐口側に分けて掘っていく特殊な工事で、山岳トンネルの掘削ではスタンダードである、NATM(New Austrian Tunneling Method)と呼ばれる工法で行われている。
「この工法では掘削と覆工という2つのサイクルを回すことになります。掘削はまず切羽(掘削断面のトンネル工事の先端)の断面に爆薬を詰めるための穴を掘る『穿孔』、次に掘った穴に爆薬を詰める『装薬』、爆薬に点火して掘削断面の岩盤を破砕する『発破』、破砕した岩盤(ずり)を坑外へ搬出する『ずり出し』、破砕断面から落ちそうな岩を大型油圧ブレーカーで削って整形する『コソク』。さらに、作業中の崩落予防のための『一次吹付けコンクリート』、アーチ状に加工したH型鋼を設置する『鋼製支保工建込み』、壁面にコンクリートを吹き付けて補強する『二次吹付けコンクリート』、そして長さ3〜4mの鉄筋をトンネル壁面に放射状に打ち込み地山と一体化させるロックボルトと続きます」と同社 土木管理本部生産性推進部の森本直樹氏が説明する。多くの工程で重機が活躍しており、時には重機でトンネルの半分が埋まってしまうこともあるという。
NATM 工法による施工の工程。2 つのサイクルが回る形となる
「さらに後工程の覆工ではトンネル内への水漏れを防ぐための『防水シート貼り』から始まり、 コンクリート打設のための『スライドセントル(型枠)の設置』、 そして型枠に生コンクリートを流し込み構造物を成型する『コンクリート打設』と続きます。 ここでは生コン車が盛んに出入りすることになります」(森本氏)工事が進めば、先の方では掘削が行われ、 並行して手前で覆工が行われることになり、トンネル内を重機や25トンダンプカー、生コン車といった車両が錯綜する形になる。 こうした状況は、安全面はもちろん、狭い坑内で離合できる箇所も限られることから車両の待機時間が生じることも課題となっていた。
既存設備を併用して坑内の車両位置を把握
「坑内は作業坑と本坑がT字になっているため、 車両同士の位置把握は目視だけには頼れず、クラクションなども使ってお互いの位置を知らせていました。 安全性と生産性の向上を考えれば車両位置の把握は不可欠でした。 そこでドライバーが車載のタブレットで他車との位置関係をつかめるシステムを開発することになりました」(同・桑島奨氏) しかしことは簡単ではなかった。時に湿度が100%に達する環境に加え、 掘り進むごとに新たな測位用のビーコンを設置していかなければならないため、 大量のビーコンを設置するコストの問題もあった。
システムの全体図。坑内と坑外の測位は自動で切り替わる仕組み
「そこで坑内に100m程度の間隔で設置されているIP電話通信用のWi-FiのAP(アクセスポイント)を有効活用できないかと考えました。 坑内を時速30kmで行き来する車両の位置を管理可能な精度(最低でも50mは必要)で捉えることは難易度が高いのですが、 マルティスープに相談したところ開発協力をいただけることになりました」(桑島氏)坑内の位置情報はiField indoorをベースに、 複数のWi-FiのAPから電波強度を按分し自己位置を推定するアプリケーションを開発した。APの間隔が100mおきでは精度的に足りないことから、 Wi-Fi間の中間地点にビーコンを置くことで絶対位置の補正を行っている。 作業員が自車の位置と他車の位置、離合箇所を直感的に把握するために、 タブレットにデフォルメマップを表示して位置情報の管理ができるインターフェースとなっている。
アプリケーションのタブレット画面。デフォルメマップで直感的に把握可能
坑内外の一元的なモニタリングも可能に
「坑外については自社のGNSSアプリケーションを活用して位置情報を取得していますが、 坑内に入ると自動検知して切り替わるようになっています。またiFieldをベースに、 現場事務所や遠隔拠点から坑内・坑外を一元的にモニタリングするシステムも開発しました」(桑島氏) このシステムには各関連車両の往復回数をカウントする仕組みがある。 これにより『ずり出し』や『吹き付け』といったトンネルの掘削サイクルが見える化され、 前工程の進捗を見ながら後続作業の準備ができるような効率化も実現している。
管理サイトでは車両の切羽到達をカウントすることで、工事の進捗状況を見える化している
システムのポイント
iFieldとiField indoorの活用により坑内外を移動する車両の位置関係の把握が可能となり、以下の改善を実現できた。
- 坑内の安全性の向上
- 掘削サイクルタイム当たりの車両待機時間が10%減少、および工事進捗状況の見える化による生産性向上
- 既存設備であるWi-FiのAPの活用による測位コストの抑制
お客様プロフィール
鹿島建設株式会社
「100年をつくる会社」をコーポレートスローガンとして掲げる日本を代表する建設会社。土木・建築事業において、BIM / CIMによる施工計画支援やIoT・ロボット技術による現場管理の効率化などICTを活用した生産性と安全性の向上に取り組んでいる。